はじめまして。
英文テクニカルライターのHirosukeと申します。
初期の頃からこのブログを拝読しておりました。
「ウチの他のライターや設計者に読ませたいなぁ」と思いつつ、時間がとれずコメントできずにいました。
お正月休みなので、今回だけ、ちょっとお邪魔致します。
2ヶ月も前の記事で申し訳ありませんが・・・。
「ちょっと」どころではない長文コメントになってしまいました。
スミマセン。
長すぎるので分割します。
>「行う」。マニュアルに出現するそのほとんどが無用の長物かも。
良くぞ言ってくれました!
ズバリ、そうでしょう!!(笑)
「意味を変えず、誤解を招かない範囲で、可能な限り簡易・簡潔に書く。」
これが、テクニカルライティングなのですから。
さらに言えば、「おこなう」には表記揺れという別問題も潜んでいるから使ってはいけないとも言えます。
「おこなう」をワープロ入力すると、変換候補には「行う」「行なう」の2つが出てきます。
実際、ウチの取説には両方が存在しており、「統一しろ!」の議論が巻き起こっています。
どちらが正なのかと辞書で調べてみると、「行う」=正用法、「行なう」=許容用法 となっています。
つまり、どちらも「間違いではない」のです。
「そんな表記揺れ議論は、正用法の『行う』に統一すれば問題解決だろう」ですって?
いやいや、これは「どちらかに統一する」ことでは解決しない問題なんです。
むしろ、正用法の『行う』に統一されたら後で困るんです。
「『行う』はNGワード! 使用禁止!!」とするのが正解なんです。
どうしてなのか?
「おこなって」の場合を考えます。
ワープロ入力すると・・・「行なって」「行って」のやはり2つの変換候補が出て来ます。
後者の「行って」が正用法なのですが、ここで、表記揺れとは異なる問題が発生したことにお気づきでしょうか。
前者は明らかに「おこなって」と読めるが、後者は「いって」とも読めてしまう。
これ、どう思いますか?
「前後関係から判断すれば、そんなおかしな読み方をする人はいない。」
との反論が聞こえてきます。
でも僕は、その反論にこう反論します。
「前後関係から判断しなければ、『おこなって』なのか『いって』なのか、どっちかわからない。それは読者への負担になる。さらには、後工程のオペレーター・校正者・翻訳者への負担にもなる。」
電子辞書とか翻訳ソフト・・・便利ですね。
でも便利なだけであって、お利巧さんではありません。
電子辞書とか翻訳ソフトは「前後関係や流れを判断する」ってことが大の苦手なんですね。
いや、「全く出来ない」と言ってもいいです。
有名なオンライン辞書「英辞朗」を使って、ちょっと実験してみましょう。
まず、「おこなってください」を正用法の「行ってください」に漢字変換して入力し、結果を確認しましょう。
次に、「いってください」を正用法の「行ってください」に漢字変換して入力し、結果を確認しましょう。
出てきた結果はどうですか?
どちらも同じですよね?
この時点で、「行って」はマニュアル用語としてはNGなのです。
だって、人間が前後関係を判断してやらない限り、間違って翻訳される恐れが大でしょう?
ちなみに、表示されている例文の和訳を読んでみてください。
ほーら、一瞬とは言え、「いって」なのか「おこなって」なのか迷いませんでしたか?
どちらなのか、思わず読み直して確認しませんでしたか?
ウチの取説には、こんな悪例文もあります。
(少々アレンジしてますが・・・。)
「配送は指定された地域順に行ってください。」
これって正しく読み取れますか?
「前後関係から判断すれば、そんなおかしな読み方をする人はいない。」という反論。
この反論は正しいですか?
「いって」なのか「おこなって」なのか一瞬でも迷った人は、読み直してしまった人は、前後関係がわからない人なのでしょうか?
一瞬でも迷わせる・読み直させるような書き方・表現そのものに原因があるとは言えませんか?
今度は、英文テクニカルライティングという観点から見てみます。
英文テクニカルライティングでは、1ワードで済むものをわざわざ長く表現することは、どんなに文法的に正しくても悪文と見なされます。
また、「動作」は「動詞」で表現することが大原則になっています。
「行う」を直訳すると do または perform ですが、実はこれらの単語は、英文テクニカルライティングでは、「ほとんど意味を成さない冗長語」とされており、NGワードの代表例になっています。
次の例を見てください。
①と②は和文・英文共に同じ意味を表していますが、どちらが「簡易・簡潔」か、一目瞭然ですね。
①調整を行う=perform adjustment
②調整する =adjust
さらには、①は adjustment という名詞を使った表現であるため、色んな問題点が潜んでいます。
英語の名詞には日本語にない特徴がいくつもあり、意外にチェックポイントが多いからです。
*a(n) か the か
*可算か不可算か
*単数か複数か
*動詞とのコロケーションは正しいか
*前置詞とのコロケーションは正しいか
動作を名詞を使って表現する①のような書き方は、英文の場合、誤記・誤訳・不統一の危険性を常にはらんでしまっているのです。
「動作」は「動詞」で表現する。
この当たり前のことが守られていません。
動作なのに名詞を使うと、長くて不自然、かつ、多くの場合が不適切な表現になる。
でも実は、これって英語の問題なのではありません。
諸悪の根源は、和文の「行う」にあるんです。
「行う」を使わなければイイんです!!
テクニカルライティングは、日本語でも英語でもその精神は全く同じです。
「意味を変えずに、誤解を招かない範囲で、可能な限り簡易・簡潔に書く。」
これが、テクニカルライティングの真髄です。
こう書くことで、統一できる。
こう書くことで、読者は迷わない。
こう書くことで、後工程も迷わない。
こう書くことで、訳文も短く正しく適切になる。
お邪魔しました。