「お話したいことがたくさんある。」とのことで,予定時刻よりも早く発表が始まった。
発表者は松下ビジネスサービス㈱の友田義典氏。
白髪ではあったが,大量のスライド(論文集にある図表は実際の数分の1でしかない。)を駆使しながらテンポ良く,発表が進んだ。
前半は「そうそう!」とうなずく事の連続。
私の言葉ではその迫力が伝わらないので,おぼえている限り,発表者の言葉を再現する。
注:()内はスライドの内容を示す。スライド内容は「論文集」を参照。実際のスライド点数は論文集の数倍はある。
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「昔の松下取説はこうでした。」
(見開き2頁に対し,イラストは左頁の1/4のスペースに集中。残りのスペースは全て文字。)
「機能が複雑になるにつれて問い合わせも数倍になり,対応に追われていました。」
(「対応費用も膨大!!」というグラフ。2次関数的に増えている。)
「問い合わせ内容は,取説をよく読めば書いてあることばかりでした。なのにお客さんの問い合わせは増えるばかり。なぜなのか?」
「アンケートをとった結果,『読んでもわからない』『取説を読んでいない』というお客さんが相当数いることが判明しました。」
「どんなに詳しく書いてあっても,読んでもらえなければ取説は用をなしません。『読めばわかる』は逆に言えば,『読まないとわからない』です。」
「設計者が書くから,こんな文字だらけの取説になるんです。『わかってもらおう』と詳しく書けば書くほど文字だらけになって,お客さんは取説を開いた途端に読む気がなくなり,電話をかけて来るわけです。」
「こんなに文字ばっかでは,ひとたび設計変更があると,修正箇所はこんなにあります。」
(実際の赤入れ原稿。)
「真っ赤ですよね。これを修正するのがどんなに大変か。ものすごい工数がかかることは一目ですぐにわかりますよね。」
「文字があるからいけないんです。スイッチ1個1個にこんなに引き出し線をゲジゲジ虫みたいに引いちゃって,どうするんですか。スイッチが1個でも増えたら,全部,移動させなきゃなんないでしょう?」
「お客さんはスイッチの名前を知りたいんじゃありません。『ココを押すと何が出来るの?』が知りたいんです。だったら,取説が書くべきなのは名前じゃないでしょう。『○○をするにはココを押す。』でいいじゃないですか。」
「読んでパッと意味のわからないカタカナ語や,お客さんにとっては不要な情報が多過ぎます。私が赤入れした原稿です。」
(真っ赤。ほとんど「トル」の指示。)
「結局,この取説はこうなりました。」
(イラスト,どーん。文字,ほとんどなし。)
「文字数半減,頁数も半減。これでも必要な情報はきっちり網羅しています。」
「今の読者はビジュアル世代です。漫画,テレビ,ゲーム,インターネット,・・・。こういう人たちには,“読む”取説ではなく,“見てわかる”取説が必要なんです。」
「“見てわかる”は世界共通語です。翻訳工数も大幅削減できました。」
「この形にしてからは問い合わせ件数が激減しました。当然、対応費用も激減。自慢ですが、開発費獲得率100%です。」
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ここまでは私が以前から考えていたことと全く同じ。
取説業界のトレンドでもあり,シンポジウムの論文集を見ると,他の発表でも同様のことが述べられている。
しかし,松下取説の徹底ぶりには非常に驚いた。
後半はさらなる驚きの連続だった。「そこまでやるか!?」という衝撃さえ感じた。
品質アップのためには「金」と「時間」が必要。その作り出し方に関して,松下がとった方法が紹介された。
「どうやって設計者や上層部を説得するか」
「どうやって取説改革費用を獲得するか」
「どうやって工夫・改善するための時間を作り出すか」
「どうやって今までと違う流れを作り出すか」等々
次から次へと繰り出されるスライド,緻密かつ具体的な立案・計画・実行。
その迫力に圧倒されるばかり。
様々な方法が紹介されたが,その全てに共通していたのは次の2点。
「ムダを徹底的に排除する。」 「浮いた分を品質アップに当てる。」
発表者自身は,今は取説を書いていないそうだ。
「今の形になってからは,『書く』というより『どう見せるか』という部分の比重が高くなり,プロデューサーみたいな役割です。」
最後に,スライドで紹介された資料や松下取説の歴史を展示している「取説ラボ(仮称)」なるものが紹介された。
「ご興味のある方は,ぜひいらしてください。」とのことだったので,私はすかさず手を挙げた。
「ぜひ見たいのですが,どこにありますか?」
発表者はニコニコしながらこう答えた。
「大阪駅から30分位のところです。」
周囲から苦笑が漏れた。
3.評価・感想
素晴らしい内容だった。
発表終了時の拍手の大きさが、誰もがその内容に感動したことを物語っている。
その内容は余りにも濃密であり、このレポートでは書き切れない。
「取説改革とはまさしくこうでなくては」と感じた60分間だった。
4.今後の対応・提案
本プログラムの内容は一原作者として対応できる範囲を明らかに越えている。
取説改革を実現するには,社を挙げて対策チームを組む必要がある。
「これはぜひ社員さんにこそ聞いて頂かねば」と思い、
「大阪会場でも同内容の発表がある。ぜひ、聞いて頂きたい。」
とリーダーにご紹介した次第である。
後でわかったことだが、「取説ラボ」は実は一般公開されていないそうである。
しかし、私の感想を聞いたリーダーが大いに興味を持ち、直接コンタクトして、特別にラボを見学できることになったそうである。
今後への大きな第一歩として、波及効果を期待したい。
追加資料:http://panasonic.co.jp/ism/ud2/01/index.html