現代精神分析は、これら三グループの間の血なまぐさい反目と必然的な合流との産物である。そして、正統派と隠れ修正主義者の、彼らの集団以外から生まれた神経症の病因と治療についての洞察を―できればひそかに―本流へ吸収することによって、すでに始まっているこの運動を麻痺させかねない理論的硬直化を相殺しようという切迫した必要の産物である。このことに関連して考えられることはまれであるが、フロムはこの過程で重要な役割を演じた。フロイトの忠実な野党の左翼メンバーとして異端派と親近関係にあった彼は、精神分析運動の周辺にあった考え方をその中心に移すための仲介役をした。そして彼がこの仲介機能を演じたために、実際は彼の生み出した多くの考えが、のちになって、より名の通った学者たちの採用するところ(それも彼らの創始によるものとして)となった。

 

フロムの遺産
作者: ダニエル バーストン
出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
発売日: 1995/12
メディア: 単行本