そもそも、思想家の仕事を年代によって区分することは誤解を招くおそれがあるが、彼を同時代人の間に位置づけ、変化する知的環境のなかで、彼の発展の文脈を辿るためには役立つだろう。この観点から、1929―1935年をフロイト-マルクス主義期と性格づけることには意味がある。フロムはその後もフロイト-マルクスの総合について考え続けたが、このもくろみは彼の初期を通じて支配し、他の関心―バッハオーフェンと母権理論など―はこの上位目的に結びつけられるかたちになっていた(フンク 1984)。この時期には、精神分析と史的唯物論、母権理論、そしてファシズムの心理学に関するフロムのめざましい研究の発表が見られたが、それとともに正統フロイト主義への不満の高まりが見られ、それは『精神分析理論の社会的限界』(フロム 1935a、ジェイ 1973)で頂点に達した。

 

フロムの遺産
作者: ダニエル バーストン
出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
発売日: 1995/12
メディア: 単行本