著者バーストンは、フロムが少なくともアメリカにおいては、死後不当に軽視されていると感じ、フロムを正等に位置づけようとする。著者が最も重視するのは、フロムのフロイトとの関係である。フロムは無意識の領域にメスを入れたフロイトを高く評価したが、彼の生物学的、機械論的な衝動理論や父権主義的な枠組みは批判した。しかし、フロムはフロイトの天才を認め、その先駆的な業績には多大の敬意を払っていたのである。著者はこの二重感情に注目し、フロムを「忠実な野党」に分類している。そして、フロイトを取りまくさまざまな学者たちのフロイトに対する態度と、フロムのそれとを対比してみせる。フロイトという焦点を持つゆえに、それぞれの類似点や相違点が浮き彫りになるのであって、ライヒやマルクーゼとの対比も、そのためにいっそう興味深いものとなっている。

フロムの遺産

  • 作者: ダニエル バーストン
  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 1995/12
  • メディア: 単行本